大血管疾患

大血管疾患はほとんどが大動脈の疾患で一般的には下記のような疾患があります。いずれも放置しておくと死に至る可能性があり、適切な時期に治療の必要があります。従来は胸やお腹を大きく切って人工血管に置き換える人工血管置換術が唯一の治療方法でしたが、現在は体への負担が少ない低侵襲治療であるステントグラフト治療が可能となってきています。徳島大学グループでは2000年頃から手作りのステントグラフト治療を開始し、2007年には四国で初めて腹部大動脈瘤に対する企業製ステントグラフトの留置に成功し、2008年には四国で初めて胸部大動脈瘤に対する企業製ステントグラフトの留置に成功しました。それ以後、従来の外科手術とステントグラフト治療を組み合わせたハイブリッド手術、開窓型ステントグラフト手術など最先進的な治療の導入を行ってきております。当院ではできるだけ体への負担が少ない低侵襲治療を心がけておりますが、確実な治療を行うことが重要で、患者様個々の病態に合わせた最適な治療を行うことが大切と考えております。

大動脈の解剖

人工血管置換術とステントグラフト治療の長所と短所

 人工血管置換術ステントグラフト治療
長所
  1. 30年以上前から行われている。
    手術で安定した成績がある。
  2. 動脈瘤の形態に左右されない。
  1. 創が小さい。
  2. 低侵襲であり、負担が少ない。
  3. 手術リスクが低い。
  4. 社会復帰が早い。
短所
  1. 創が大きい。
  2. 侵襲が大きく、体への負担が大きい。
  3. 手術リスクが高い。
  4. 再開胸、開腹を要する合併症が起こる場合がある。
  1. 動脈瘤の場所、形態によって適応できない場合がある。
  2. 新しい治療方法であり長期成績が不明である。
  3. 追加治療が必要になることがある。
  4. 腎機能を悪化させる可能性がある。

胸部大動脈瘤

横隔膜より頭側の胸部大動脈に生じる動脈瘤です。大動脈瘤の場所によって治療方法が大きく異なってきます。上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤は人工血管置換術が適応となります。下行大動脈瘤はステントグラフト治療が良い適応となります。ただ胸部大動脈瘤の人工血管置換術は人工心肺装置という器械を用いて体外循環を行うことが必要で体への負担が大きく、胸部大動脈瘤の治療こそステントグラフト治療の有効性が発揮できます。しかしまだまだステントグラフト治療の適応にならない場合が多いのが現状ですが、弓部大動脈瘤に対しては頚部分枝(脳や上肢につながる血管)へのバイパス術を組み合わせることによってステントグラフト治療が可能となってきております。


弓部大動脈瘤に対する頚部分枝バイパスを併用したステントグラフト治療

腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤

通常腎動脈より尾側の大動脈に生じる動脈瘤がほとんどで、大動脈瘤の中で最も多い動脈瘤です。大動脈瘤の形態、場所によって人工血管置換術またはステントグラフト治療の適応となります。ステントグラフトの進歩、中期成績の確立によってステントグラフト治療が主流になってきております。大動脈瘤の形態、場所がステントグラフト治療に適さない場合でも高齢の方、合併症をもっている方など人工血管置換術のリスクが高い場合は特殊な技術を用いてステントグラフト治療が可能です。


Snorkel法 腎動脈直下腹部大動脈瘤に対する腎動脈ステントを併用したステントグラフト治療

開窓法 腎動脈直下腹部大動脈瘤に対する開窓型ステントグラフトを用いた治療

大動脈解離

大動脈解離には急性A型解離、急性B型解離、慢性A型解離、慢性B型解離があります。解離とは3層構造をした大動脈壁が2層にはがれる病態で、解離がおこってすぐの状態を急性、解離が起こって一ヶ月以上経っている状態を慢性といいます。基本的には急性A型解離は保存的治療では死亡率が高く緊急手術が必要です。急性B型解離は降圧安静による保存的治療で急性期は状態が安定することがほとんどです。したがって慢性A型解離は非常にまれですが、急性B型解離は慢性B型解離へと移行します。慢性B型解離は発症時の形態によっていろいろな状態に移行し、今度は破裂する可能性が生じてくる場合があります。慢性B型解離の人工血管置換術は広範囲で過大な手術となり手術成績が悪く、そういった背景から最近では破裂する可能性がある慢性B型解離になる前に、比較的早期にステントグラフト治療を行うという考えがでてきております。

治療前

治療後

前の記事

末梢血管疾患

次の記事

小児心臓疾患